ここ最近で初めて外出してよかったと思った一日
私の今月の本にかける予算はいろいろあって三千円である。
そしてそのうちの三分の一を村上春樹のノルウェイの森にかけようと思っていた。
しかしその購入の予定は来月に回されることとなった。
今日はしょっぱなからあまりよくないスタートだった。
バイトのシフトを一時間勘違い。
怒られることはなかったがそこで気分はがた落ちだった。
さらにいつもはしないようなミスをしてしまいとにかく早く上がって今日の晩御飯であるぶりの照り焼きを食べたかった。
上がってから私の心はなんだか寂しくて自転車は自然といってみたかった本屋さんに向かっていた。
なにか運命的な出会いをした本を読みたいと思ったから
かな??
初めて訪れる個人書店。
どんな店主さんがいるのかなと少し緊張していた。
なかは居心地が良い本屋でジャンルは様々だった。
私は本や出版について書かれている本と恋愛について書かれている本とでどちらを買うか迷った。
迷いだしたらその時は買わないほうがいいと私は知っているが、出ように出られない。
だって一時間くらいぶらぶらしていたから。
その一時間の間にいろいろなことがあったのだけれど。
まず少し居心地が悪くなった。
というのも店主さんの知り合い、もしくは顔なじみらしき人が来店して今まで私が独り占めしてきた空間が変化し、なんだか友達同士の中にまぎれた知らない人に自分がなったような感覚に陥った。
でも出ように出られないからその人たちが出ていくまで本を見ていることにした。
そしてそのあとに来た人は私の胸をざわつかせた。
その人は以前(恐らく)付き合っていた人と同じ匂いがした。
すれ違った瞬間心臓がちょっと反応した。
後姿を見たけれど絶対に同一人物じゃなかったから安心したけれど、すれ違うたびに好きだった人の匂いを嗅ぐ羽目になってなんだか落ち着かなかった。
そして私は買う本を決めた。レジに持って行って衝撃。
三千円以上じゃないとカードが使えないそうだ。
今私の財布には千円は確実に入っている。
欲しい本は千四百円プラス税。
要するに千五百四円!
財布に入っているか非常に怪しい。
三千円は私の今月の本にかける予算だ。
この本屋では一冊しか買わないと決めていたし、ノルウェイの森も読みたい。
でも財布の中身を確認するなんてそんなカッコ悪いことしたくない。
私は心の中で非常に焦っていた。
財布の中、みたいなあ
でも、正直カード払いがいいなあ
って感じで頑張って三千円分の本を購入することにした。
ノルウェイの森はいつでも買える
でもこの本屋での本との出会いは今限りかもしれないじゃん!?
みたいに自分を言いくるめて。
結果最高に楽しい本屋タイムを過ごすことができた。
そして購入予定の本をレジに持っていこうとしたとき、またしても障害が訪れた。
第二の店主さんの知り合い、もしくは顔なじみが来店したのだ。
しかも今度はすぐ帰りそうにない。
ずっとお話ししている。
そんな空気をぶち壊してお会計してもらう心の元気は今日はなかった。
気づいてくれ~~~
と思いながらちらっと店主さんを見るとお会計してくれた。
私の気持ちを察したのか、もしくはさっさと帰ってほしかったのか。
どちらでもよいのだ、そろそろお腹も減ってきた。
この後はスーパーで特売のみりんと小麦粉を買うのだ。
そういえば店主さん、結構コミュニケーション能力が高い方だった。
初めてですか?なんて私に聞いてきた。
それを聞いてああこの人はどんなお客さんとも会話するタイプなのだなと思った。個人書店をやっていくうえで人脈は大切なのかもしれないとひっそりと感じた。
そしてやっぱり本屋さんの研究を卒論のテーマにしてみようと帰り道に思った。
ところが。
スーパーのレジでお財布を開けて愕然。
お財布には最初買おうとした本一冊分の値段にギリギリ足りる額が入っていた。
その事実は私が先ほどまで感じていた文化人的な感傷をぶち壊した。
今私の頭の中にはノルウェイの森を今月読めなくなってしまった事への深い後悔が渦を巻いて私の中に居座っている。